子どもの虫歯はどこからうつる?家族で気をつけたいこと

「スプーン、ちゃんと分けてる?」

下の子が離乳食を始めたころ、そう聞かれて言葉に詰まったことがあります。
歯科衛生士として働いていたころの私なら、迷わず「分けてくださいね」と答えていました。
でもそのときにはもう、この話は前ほど単純ではないと知っていたのです。

はじめまして、森岡ゆきと申します。
歯科医院で10年ほど歯科衛生士として働き、いまは小学2年生と年少の子どもを育てながらこのブログを書いています。
自分が現場で教わったことが、あとから見直されていく。
むし歯の「うつる」問題は、まさにその代表格だと思っています。

この記事では、子どものむし歯菌はどこから来るのか、食器を分けることに意味はあるのかを、2023年に出た2つの学会見解をもとに整理します。
そのうえで、家族として本当に気をつけたいことをまとめました。
スプーンを分けられなかったと悔やんでいる方にこそ、読んでいただきたい内容です。

「虫歯がうつる」は本当?まず前提を整理します

結論から言うと、むし歯の原因菌が家族から子どもへ伝わること自体は事実です。
ただし「だから食器を分ければ防げる」という話には、そのままつながりません。

原因菌が親から子へ伝わることは確認されている

日本小児歯科学会は2023年12月に公開した見解のなかで、母親をはじめとする養育者から子どもへ、むし歯の原因菌が伝播することは明らかになっていると述べています。
そのうえで、家庭でのさまざまな接触が原因になりうるとし、食器やスプーンなどの共有も「その一つになっている可能性は否定できません」としています。

つまり、菌が家族間を行き来していること自体は否定されていません。
ここが「うつるなんて嘘だった」という乱暴な理解との分かれ目です。

原因菌はミュータンス菌だけではない

むし歯というと、ミュータンス菌という名前だけが独り歩きしがちです。
けれども日本口腔衛生学会は、口の中には数百種以上の細菌が存在し、ミュータンスレンサ球菌だけでなく多くの口腔細菌が酸をつくってむし歯の原因になると説明しています。

特定の1種類の菌をブロックすれば守れる、という構図ではないわけです。
衛生士時代、私は「むし歯菌をうつさない」という言い方をよくしていましたが、いま思えば単純化しすぎていました。

「うつる」と「むし歯になる」はイコールではない

菌が口の中にいることと、実際に歯に穴があくことは別の話です。
菌がいても、汚れが落ちていて糖分に触れる時間が短ければ、酸が出続ける状態にはなりません。

ここを混同すると、菌をゼロにする方向にばかり神経が向かってしまいます。
本当に効くのは、そのあとの毎日の積み重ねのほうです。

食器を分けても、虫歯は減らなかった

ここが今回いちばんお伝えしたい部分です。
2023年8月、日本口腔衛生学会が「乳幼児期における親との食器共有について」という見解を公開しました。

生後4か月には、もう親の菌が伝わっている

同学会は、最近の研究で生後4か月の時点で母親の口腔細菌が子どもに伝播していることが確認されている、と説明しています。
一方で食器の共有が始まるのは、離乳食が始まる生後5〜6か月ごろです。

つまり、スプーンを分け始めるより前に、すでに菌のやり取りは起きています。
日々のスキンシップを通して子どもは親の唾液に触れるため、食器の共有を避ける方法で細菌の感染を防ぐことを気にしすぎる必要はない、というのが同学会の立場です。

3歳児を調べた研究では、食器共有とむし歯に関連が見られなかった

同じ見解のなかでは、日本で行われた研究についても触れられています。
むし歯に関連する複数の要因を考慮したうえで調べた結果、3歳児において親との食器共有とむし歯との関連性は認められていない、という内容です。

砂糖の摂り方や歯みがきの状況といった要因を差し引くと、食器を分けたかどうかは差として出てこなかったわけです。
「あのとき同じスプーンを使ってしまったから」と自分を責めている方がいたら、そこはもう手放して大丈夫だと思います。

親の唾液に触れることのメリットも報告されている

さらに同学会は、親の唾液に接触することが子どものアレルギーを予防する可能性を示す研究が報道されたことにも言及しています。
唾液の接触は、リスクだけの行為ではないということです。

もっとも、これは「積極的に唾液をやり取りしましょう」という話ではありません。
神経質に避けるほどの根拠はない、という受け止め方が妥当だと私は考えています。

それでも家族の口の中を気にしたい、もう一つの理由

食器を分けることの優先順位は下がりました。
ただ、家族の口の中がどうでもよくなったわけではありません。

学会がすすめているのは「親自身が歯科健診を受けること」

日本小児歯科学会の見解は、食具を共有しないことに限らず、養育者がきちんと歯科健診を受けてむし歯や歯周病のない口腔内を保ちながら子育てをおこなうことが、子どものむし歯予防のうえでも大切だとしています。

分けるかどうかより、親の口の中が健康かどうか。
やることが1つ減って、代わりに1つ増えたと考えるとわかりやすいと思います。

子どもは9割以上、親世代は6割弱

厚生労働省の令和6年歯科疾患実態調査では、過去1年間に歯科検診を受けた人の割合が年齢別に出ています。

年齢階級過去1年間に歯科検診を受けた割合
5〜9歳96.6%
10〜14歳95.2%
20〜24歳45.1%
30〜34歳55.5%
35〜39歳59.5%
全体63.8%

子どもは園や学校の健診があるので、ほとんどが受けています。
それに対して、子育て世代にあたる30代は6割に届きません。
30〜34歳の男性にいたっては45.7%で、半数を切っています。

家庭のなかで、いちばん口の中を見てもらっていないのは親のほうという構図です。
これを見たとき、私は正直ぐうの音も出ませんでした。

親の未処置のむし歯は、家族全体の環境になる

親の口にむし歯や歯周病があると、口の中の細菌の量そのものが多くなります。
接触の機会をどれだけ減らしても、供給源が大きいままでは意味が薄れてしまいます。

しかも子どもは、親の生活習慣をそのまま引き継ぎます。
親が歯科に通っていない家庭では、子どもの通院もいつのまにか途切れがちです。

菌より、砂糖と時間。むし歯が決まるのはここ

むし歯は、菌がいるかどうかの一点で決まるものではありません。
実際に歯を溶かすかどうかを分けるのは、糖分と、それが口の中にある時間です。

菌が住みつくきっかけをつくるのは砂糖

日本小児歯科学会の質問箱では、1歳を過ぎて砂糖をとり始めることで、むし歯の原因菌が歯の表面に付着しやすくなると説明されています。
菌の定着そのものに、砂糖が関わっているということです。

裏を返せば、砂糖との付き合い方を整えることが、菌対策としても効いてきます。
食器を分けるより、こちらのほうがずっと現実的です。

いちばん危ないのは、だらだら食べとだらだら飲み

同じ量のおやつでも、一度に食べ終えるのと、少しずつ何時間も口に入れ続けるのとでは、歯にとっての意味がまったく違います。
口の中が酸性に傾いている時間が、後者では何倍にもなるからです。

わが家では、おやつは時間を決めて出す、食べ終わったら片づける、という形にしています。
量を減らすより、こちらのほうが子どもの抵抗が少なくて済みました。

イオン飲料やジュースを水代わりにしない

日本小児歯科学会は2020年に「イオン飲料とむし歯に関する考え方」を公開しています。
そこではイオン飲料のpHが3.6〜4.6であること、pH5.4以下ではエナメル質の脱灰が起こりやすいことが示され、むし歯と酸蝕症の両方の原因になりうると説明されています。

そのうえで乳幼児には、激しい運動をしたときや極端に汗をかいたとき以外は普通の水を与えることがすすめられています。
夏場につい常備してしまう飲み物ですが、水筒の中身は麦茶か水にしておくと安心です。

家族で今日からできること

ここまでを踏まえて、実際に取り組む価値が高いものを挙げます。
どれも特別なことではありません。

  • 親も子どもと同じタイミングで歯科検診に行く
  • 家族全員でフッ化物入りの歯磨き粉を使う
  • 寝る前の仕上げ磨きだけは欠かさない
  • おやつと飲み物は時間と回数を決める
  • 甘い飲み物を水代わりにしない

親の検診は、子どもの予約とセットにする

30代の受診率が低いのは、意識の問題というより単純に時間がないからだと思います。
だからこそ、子どもの定期検診を予約するときに自分の分も一緒に取ってしまうのが早いです。

わが家はこの方法にしてから、私も夫も通院が途切れなくなりました。
子どもにとっても、親が診てもらう姿を見るのは悪いことではないようです。

フッ化物は家族みんなで使う

日本口腔衛生学会も、菌が伝播したとしても、砂糖を控え、親が毎日仕上げみがきで歯垢を除去し、フッ化物を利用することでむし歯は予防できると述べています。
特にフッ化物については、多くの論文で予防効果が確認されている方法だとしています。

年齢別の目安は、4学会が合同でまとめた推奨方法が参考になります。
くわしくは日本小児歯科学会の「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について」補足版をご覧ください。

年齢フッ化物濃度使用量の目安
歯が生えてから2歳1000ppmF米粒程度(1〜2mm)
3〜5歳1000ppmFグリーンピース程度(5mm)
6歳〜成人・高齢者1500ppmF歯ブラシ全体(1.5〜2cm)

歯みがきのあとは軽くはき出し、うがいをする場合は少量の水で1回だけにとどめます。
念入りにゆすぐと、せっかくのフッ化物が流れてしまうためです。

寝る前だけは、何があっても

寝ているあいだは唾液の分泌が減り、口の中を洗い流す力が落ちます。
日本小児歯科学会も、少なくとも寝る前は必ず仕上げみがきを行うようすすめています。

朝が慌ただしくても、昼に磨けなくても、夜だけは押さえる。
全部を完璧にやろうとするより、この一点に絞ったほうが結局続きます。

まとめ

むし歯の原因菌が家族から子どもへ伝わること自体は、いまも否定されていません。
ただ、生後4か月にはすでに伝播が起きているとされ、3歳児を調べた研究でも食器の共有とむし歯の関連は見られませんでした。
スプーンを分けなかったことを悔やむ必要は、もうないと思います。

代わりに意識したいのは、親自身が歯科検診を受けること、家族でフッ化物を使うこと、そして砂糖と接する時間を短くすることです。
子どもの受診率が9割を超える一方で、30代の親は6割に届いていません。
自分の口の中を整えることが、そのまま子どものむし歯予防につながります。

正しさが更新されていくのは、それだけ研究が進んでいるということでもあります。
昔の知識のまま自分を責めている方がいたら、今日から切り替えて大丈夫です。

完璧じゃなくて大丈夫。
迷ったときは、子どもの歯を見慣れている歯医者さんに相談するのがいちばん早いですよ。